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用語
工学 ・・・・・・ 基礎科学を工業生産に応用して生産力を向上させるための応 用的科学技術の総称。古くは専ら兵器の製作および取扱いの方法を指す意味に使われたが、のち土木工学を、さらに現在では物質・エネルギー・情報などにかかわる広い範囲を含む。
技術 ・・・・・・ 科学を実地に応用して自然の事物を改変・加工し、人間生活に利用するわざ。
科学 ・・・・・・ 世界と現象の一部を対象領域とする、経験的に論証できる系統的な合理的認識。自然科学(自然に属する諸対象を取り扱い、その法則性を明らかにする学問
科学・技術と工学の位置づけ
科学と技術の関係
【異なるベクトルの時代】・科学が目指しているのは認識であり技術が目指しているのは製作である。・科学が「単純な原理から出発して無矛盾の体系を構築すること」あるのに 対して、技術が提起する現実的な問題はあまりにも複雑すぎた。(剛体の力学、理想気体、完全流体)
【技術が先行し、科学が後押しの時代】
・沸騰の法則を応用してボイラーが開発されたのではなく、ボイラーの開
発によって沸騰現象が科学的に解明されてきた。・熱力学の応用として熱機関が開発されたのではなく、熱機関の科学的研 究の結果、熱力学が体系化された。
【応用科学の時代】
・エコール・ポリテクニーク(科学の応用が技術である。18世紀フランス)
・科学的知見が技術を生み出す時代。・20世紀後半になって、科学に基づく技術が現実的になってきた(核爆 弾、レーザー、半導体)。
工学の歴史
工学・・・科学的成果の応用による技術高度化の体系化
フランス エコール・ポリテクニーク(1794)
ドイツ テクニッシェ・シューレ、1870年以降工科大学に
スイス チューリッヒ工科大学(1855)
アメリカ マサチューセッツ工科大学(1861)
日本 工部大学校(1876)
工学の歴史(2)
【欧州】
18世紀中葉以降ヨーロッパ各地で各種の技術学校が設立され始めた。1747年フランス土木工学校、1765年フライベルグ鉱山学校。その目的は近代国家を建設・整備し、産業革命を遂行するには高度で体系的な知識を持った技術者が必要とされた。
【フランス】
1794年にパリに設立されたエコール・ポリテクニーク(理工科学校)は軍事技術者、公共事業に携わる技術者を養成する国家的機関として、旧来の各種技術学校を統合・再編することで設立され、フランス各地からの優秀な青年が選抜され教育された。カリキュラムはそれまでの伝統的技術知識の教育ではなく、理論的・基礎的な知識の習得(数学、図学、力学)に重点が置かれ、〈基礎から応用へ〉へ技術知識を体系づけ教育が行われた、これが近代工学の原点となった。
工学の歴史(3)
【ドイツ】
ドイツでもエコール・ポリテクニークに刺激され技術学校が各地に設立された。しかし、エコール・ポリテニークが大学以上の高等教育機関と位置づけられていたのに対して、技術学校は中等教育機関と位置づけられていた。その後ドイツ技師協会などの働きかけもあり、1870年以降工科大学に格上げされた。
【イギリス】
産業革命のトップランナーであったイギリスでは、1840年グラスゴー大学、1841年ロンドン大学に工学講座が設けられたが、本格的な工科大学は設立されなかった。これはイギリスの産業革命の牽引者は技師や機械工の創意工夫による自前の技術改良によるものであり、大学のアカデミズムとは一線を画するものであったからである。欧州大陸諸国の工学教育普及からの遅れに危機感を持った知識人・大学人などは、企業家や土地所有者の資金で理工カレッジが設立した。その後19世紀末になってようやく大学に昇格するようになった。
工学の歴史(4)
【アメリカ】 アメリカではエコール・ポリテクニークにならって、1802年ウエスト・ポイントに国立陸軍アカデミーが設立された。また、1861年にはMITをはじめ10数校の理工系高等研究機関が設立された。しかし、これは広大な国土と新興するアメリカ産業を支えるためには十分でなく、1862年に農業や工学の教育機関を振興するモリル法が公布され、1862年に12校であった理工系高等教育機関が1872年には70校に増加している。
工学の歴史(5)
【日本】
日本では、明治政府が工部省を設け産業育成に力を入れたが、この工部省が1871年高級技術者の養成機関として工部大学校(当初は工部寮)を設立し、イギリス人(スコットランド)ヘンリー・ダイヤーの指導のもとに土木、機械、造家(建築)、他の工学諸分野での教育が行われた。ダイヤーはスイスの連邦工科大学をモデルに、イギリス流の経験主義的実地教育(実習工場)を取り入れた先進的工学教育を実践した。工部大学校は1886年帝国大学の発足に際し工科大学としてその一翼を担った。また、工部大学校の成果は、欧州大陸諸国に比して大きく遅れていたイギリスの工学教育の改革の中で先進的なモデルとなった。イギリス人ダイヤーはランキンの一番弟子、伊藤博文の養成で来日した。
(4)科学と技術の相互依存の変化
・技術から工学・科学へ(18,19世紀)水ポンプの効率化 → ベルヌーイ「流体力学」1738年風水力機械 → アシェット「機械基礎論」1811年蒸気機関の効率化 → カルノー「火の動力についての考察」1824年ワットの調速機 → 大型化と不安定化 → 非線形系動力学1876年(1788年)・科学と技術の相互関係の緊密化(20世紀)核科学 シカゴパイル、マンハッタン計画、核爆弾量子力学 固体物理、トランジスタ、半導体素子遺伝子科学 遺伝子組み替え、ヒトインシュリン、遺伝子治療
科学と技術の相互依存の変化(2)
・科学から技術への時間の短縮イノベーションサイクル基礎研究→応用研究→実用化研究→製品開発→生産科学知識・技術知識の蓄積量の増大情報伝達の短時間化競争の激化・科学知識の技術化への選択・評価技術の大規模化(部分と全体、象と盲人)負のインパクト(公害、廃棄物、CO2、TA)技術の倫理(核力の利用、臓器移植、脳死)開発資源(人、物、金)制約による優先度評価(福祉か宇宙利用か)技術の政治化
「現代技術論」
今岡達雄(三菱総合研究所)
キーワード:先端技術、産業、経済
参考文献
三橋規宏「先端技術と日本経済」岩波新書232
藤井美文・菊池純一「先端技術と経済」岩波書店
佐藤隆三「技術の経済学」PHP研究所
図 科学・技術と工学の位置付け
(1)科学技術の活動領域(1)
ニーズ対応領域(欲求を満たすことを目的とした技術領域)
○国民生活の質的向上 ・健康の維持・増進
・安全・防災
・環境保全
・教育・文化
○経済活動の活性化 ・素材産業の高度化
・加工産業の高度化
・サービス産業の高度化
○社会基盤整備 ・食糧
・エネルギー
・資源
・国土開発
・情報・通信
・運輸・交通
(1)科学技術の活動領域(2)
(2)技術の経済効果(1)
・日米経済摩擦(労働→設備→技術)
−繊維、鉄鋼、CTV、工作機械、自動車、半導体
−コンピュータ、通信機器、HDTV
−知的所有権
−模倣型戦略の成功例(米国、日本)
・技術の効用
−プロセス・イノベーション(生産技術開発)
−プロダクト・イノベーション(新製品開発)
・なぜ技術開発を行うのか?
−イノベーションによって生み出される市場
(低価格、高機能、新製品)
−技術知識の移植性と独占(特許制度)
−先行者利益(開発サイクルの短縮化)、企業間競争
(2)技術の経済効果(2)
(3)技術のマクロトレンド
・技術の役割
−生活の利便性の向上(満足度の計量方法)
−直接・間接費用の低減
・技術のマクロトレンド(Hot Issue)
−技術の3要素の動向
物
情報
エネルギー
−マイナスの極小化
廃棄
図 技術の役割
技術の未来
(1)技術のマクロトレンド
・技術の役割
−生活の利便性の向上(満足度の計量方法)
−直接・間接費用の低減
・技術のマクロトレンド(Hot Issue)
−技術の3要素の動向
物
情報
エネルギー
−マイナスの極小化
廃棄
図 技術のマクロトレンド
物系技術
1.超微細化
STM、マイクロマシン、超格子
2.超機能化
超電導、超耐熱材料、ニューガラス
3.複合化
傾斜機能材料、無重量材料製造
情報技術
エネルギー技術
1.携帯エネルギー
高密度二次電池、燃料電池
2.自然エネルギー
太陽電池、風力発電
3.新省エネルギー
燃料電池、コジェネレーション
廃棄技術
1.クリーン化技術
Nox浄化、CO2固定化、生分解材料
2.リサイクル技術
エネルギーリサイクル、マテリアルリサイクル
3.評価
ライフサイクル・コスト
(2)日本の研究開発の問題点
日本の研究開発の問題点(2)
(3)工学の再認識
(4)工学の細分化
細分化の問題点
総合化のアプローチ(2)