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平成12年度浄土宗総合学術大会第4部会(2000.9.12)
「阿弥陀仏の表現」アンケート調査の詳細分析
浄土宗総合研究所 専任研究員 今岡達雄
1.調査の概要
アンケート調査の対象は宗内の布教師の方々で、浄土宗常任布教師、総本山知恩院布教師会会員、大本山増上寺布教師会会員、大本山善導寺布教師会会員の方々719名を対象にして行った。回答期限は平成12年2月20日で、同年3月8日までに到着した266票について調査集計を行った。調査は無記名でも可として行い、結果として266票中無記名は21票であった。 調査の質問は以下に示す7問でこれに回答者の識別情報を訊ねている。なお識別情報については無記名も可としているが、年齢および教区については記入をお願いしている。
質問1.年間にどのくらい布教出座していますか。(自坊を除く)
質問2.授戒会、五重相伝会、帰敬式での勧誡のご経験がありますか。
質問3.これまでの勧誡のご経験は何回くらいですか。
質問4.あなたは、説教・法話の中で阿弥陀仏をお説きになっていますか。
質問5.説教・法話を行なうとき、何を重視していますか。(3つ以内)
質問6.阿弥陀仏を説かれる場合、どの様な表現をなさっていますか。具体的にお書きください。
質問7.阿弥陀仏の表現について、ご意見がありましたならば回答用紙にご記入ください。
識別情報:名前、年齢、教区、寺院名、寺院番号
2.調査結果の概要
調査結果の概要については、前述したように、浄土宗総合研究所「教化研究」No.11P.63『PCの普及化と「阿弥陀仏の表現」について-布教・情報研究成果報告』に報告されているのでこちらを参照していただきたい。
3.調査結果の詳細分析
詳細分析はクロス集計を中心に行った。クロス集計を行うための項目としては回答者の識別項目のうち年齢、教区を採りあげ、分析該当数を確保するために年齢を10歳毎の年齢階層に、教区を地域ブロックにして分析を行った。この分析では布教師の方々の布教実態が年齢や地域によって違いが有るか否かの検証を行うことが出来る。
(1)出座回数
この質問への有効回答者261名の全平均では出座回数「10日未満48.7%」「10日以上30日未満33.0%」「30日以上18.4%」であった。
①年齢層別クロス
40歳代(回答数31名)では54.8%、22.6%、22.6%、80歳代(21名)では33.3%、52.4%、14.3%となっている。出座回数30日以上については全平均からの変動幅が5%以内であり、各年齢層の中で出座回数の多い布教師が約2割程度存在することが示されている。出座回数10日未満については、40歳代で多く年齢層が上がるほど少なくなる傾向にある。これに反して、出座回数10日以上30日未満の回答は年齢層が上がるほど増加傾向にあり、全般的には高齢になるに従って出座回数が増加する傾向にある。
②地域ブロック別クロス
地域ブロック別の集計では回答者が全国8ブロックに分散するため1地域当たりの有効回答数が少なくなってしまう。このため回答数の多い関東ブロック(74名)と近畿ブロック(58名)の2つのブロック間の相違点を分析した。出座回数については関東ブロックでは「10日未満63.5%」「10日以上30日未満27.0%」「30日以上9.5%」、近畿ブロックは「10日未満24.1%」「10日以上30日未満37.9%」「30日以上37.9%」となっている。関東ブロックが10日未満が6割を超えており、30日以上が1割を切っているのに対して、近畿ブロックでは10日未満が約四分の一で、30日以上が4割近くとなっている。つまり、近畿ブロックでは1人の布教師の出座回数が、関東ブロックに比較してかなり多いことが示されている。
(2)勧誡経験
勧誡経験に関する回答262名のうち勧誡経験のある布教師は「あり37.4%」「無し62.6%」であった。
①年齢層別クロス
これを年齢層別に見ると40歳代(31名)では「あり29.0%」「なし71.0%」、70歳代では「あり49.1%」「なし50.9%」である。80歳代では「あり」が若干低下するが、全体的には年齢層が高くなるほど勧誡経験が多くなる傾向にある。
②地域ブロック別クロス
関東ブロックでは「あり29.3%」「なし70.7%」、近畿ブロックでは「あり66.1%」「なし33.9%」であるから、関東ブロックと近畿ブロックでは割合がほぼ逆転している。これは、授戒会、五重相伝の開催回数の違いを反映しているものであろう。
(3)勧誡回数
勧誡経験者96名については「5回未満55.2%」「5回以上10回未満19.8%」「10回以上25.0%」であった。
①年齢層別クロス
年齢層が上がると共に10回以上の経験者が増加する傾向にある。
②地域ブロック別クロス
関東ブロックでの勧誡経験者21名、近畿ブロックでの勧誡経験者39名に勧誡の回数を聞いた結果は関東ブロックでは「5回未満66.7%」「5回以上10回未満14.3%」「10回以上19.0%」、近畿ブロックでは「5回未満46.2%」「5回以上10回未満17.9%」「10回以上35.9%」となっており、一人の布教師が勧誡を行う回数も近畿ブロックの法が多くなっていることが分かる。
(4)阿弥陀仏を説くか
回答者260名の回答内容は「必ず説く47.7%」「必要ならば説く48.1%」「説かない4.2%」であった。
①年齢層別クロス
40歳代では「必ず説く41.9%」「必要ならば説く41.9%」「説かない16.1%」、80歳代では「必ず説く63.6%」「必要ならば説く36.4%」「説かない0.0%」となっており必ず説くとの回答は年齢層が上がるほど多くなる。また、40歳代の布教師で説かないという回答が16.1%あるのも特徴的である。
②地域ブロック別クロス
関東ブロックでは「必ず説く40.5%」「必要ならば説く54.1%」「説かない5.4%」、近畿ブロックでは「必ず説く44.8%」「必要ならば説く50.0%」「説かない5.2%」でほぼ一致している。
(5)布教時の重視項目
この質問は3つ以内の複数選択肢を選ぶことの出来る質問である。有効回答者262名で最も支持の大きかった項目は「6.わかり易く説く73.3%」「5.聴衆との共感を重視する44.7%」「2.浄土宗にこだわらず広く仏教の話をする39.3%」「1.法然上人伝を中心に説く38.2%」「4.因縁話を豊富にする31.7%」となっている。
①年齢層別クロス
このうち「わかり易く説く」「聴衆との共感を重視する」については年齢層が高くなるほど支持が低くなる傾向にある。これに対して「法然上人伝を中心に説く」は年齢層が高くなるほど支持が高くなる傾向がある。「浄土宗にこだわらず広く仏教の話をする」は60歳代で支持が高く、「因縁話を豊富にする」は50歳代の支持が高くなっている。しかし、これらは微少な差異であり全回答者の傾向を大きく変えるものではない。
②地域ブロック別クロス
布教時に重視することにかんして関東ブロックでの集計では「わかり易く説く73.3%」「浄土宗にこだわらず広く仏教の話をする49.3%」「法然上人伝を中心に説く37.3%」「聴衆との共感を重視する37.3」「タイムリーな話題を取り入れる29.3%」となっている。近畿ブロックの集計では「わかり易く説く75.9%」「聴衆との共感を重視する44.8%」「法然上人伝を中心に説く44.8%」「浄土宗にこだわらず広く仏教の話をする36.2%」「因縁話を豊富にする36.2%」となっている。 つまり関東ブロックでは通仏教的な話の重要度を高く評価し、因縁話よりもタイムリーな話を重視する傾向がある。近畿ブロックでは法然上人伝と聴衆との共感を重視し、タイムリーな話よりも因縁話(体験談、事実談)を重視する傾向にある。
(6)阿弥陀仏の表現
本質問は記述式であり傾向を数量的に示すことは難しい。そこで、各回答者の記述の中からキーワードを抽出し、どのようなキーワードで阿弥陀仏が表現されているかを分析した。回答者245名のなかで採りあげられることの多かったキーワードは「無量寿・無量光から説く26.8%」「法蔵説話から説く25.2%」「大宇宙の根源と説く19.1%」「お陰様と説く18.3%」「三身即一の阿弥陀仏と説く16.7%」「大親様と説く16.3%」「大慈悲の仏と説く15.4%」等であった。
①年齢層別クロス
40歳代では「無量寿・光37%」「法蔵説話30%」「大宇宙27%」「大親様23%」「お陰様20%」「三身礼20%」、50歳代では「法蔵説話26%」「三身即一26%」「無量寿・光24%」「お陰様24%」「大親様22%」、60歳代では「法蔵説話33%」「無量寿・光22%」「三身即一22%」「大慈悲22%」、70歳代では「無量寿・光39%」「大宇宙29%」「お陰様29%」「法蔵説話22%」となっており、良くわかってもらうための表現が年代層によって若干異なっていることがわかる。
②地域ブロック別クロス
関東ブロックでは20%以上の回答者によって織り上げられたキーワードは「法蔵説話24%」「無量寿・光20%」「大宇宙20%」の3つであった。その他多くのキーワードに分散しているのが特徴である。近畿ブロックでは「お陰様37%」「三身即一30%」「法蔵説話28%」「無量寿・光26%」「大親様22%」となっている。 関東で支持の高い「大宇宙」表現は関東ブロックでは20%であるが近畿ブロックでは9%の支持になっている。一方、近畿で支持の高い「お陰様」表現は近畿ブロックで37%なのに対し関東ブロックでは11%、「大親様」表現は近畿ブロックで22%であるが関東ブロックでは9%の支持となっている。つまり「法蔵説話」や「無量寿・無量光」から説く方法は関東ブロックにも近畿ブロックにも共通したと説き方であるが、「大宇宙・生命の根源」という説き方は関東ブロックでは支持され、「お陰様」「大親様」という説き方は近畿ブロックでの支持が高い説き方であることがわかる・
(7)自由記入
質問7は阿弥陀仏の表現に関する自由記入欄である。回答総数は105名であった。結果の集計は『教化研究』を御覧いただきたい。特徴は現代化の賛否、法身的説き方に対する賛否等それぞれほぼ同数の意見が示されていることである。 自由記入は数が限定されているので、年齢層別や地域ブロック別の分析は有効ではないと思われる。比較的回答数に多い関東・近畿ブロックの集計では、近畿ブロックで「言葉よりも念佛を進める」「原典に還る」が多く、関東ブロックでは「法身的表現批判」「法身的表現推奨」の両者が多いことがみられた。
4.まとめ
「阿弥陀仏の表現」についてのアンケート調査結果について、年齢層別、地域ブロック別のクロス集計結果について分析を行った。年齢層別のクロスでは出座回数、勧誡経験などで年齢層別の違いが見られるが、阿弥陀仏の表現については大きな相違点は見られなかった。一方、地域ブロック別クロス集計では回答数の制限から関東ブロックと近畿ブロックの対比が中心になったが、勧誡の経験において大きな違いがみられた。また、阿弥陀仏の表現においては「法蔵説話」「無量寿・無量光」など共通する部分と、「お陰様」「大親様」「大宇宙・命の根源」など阿弥陀仏の働きかけに関して表現の違いが有ることが示された。