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浄土宗総合研究所 嘱託研究員 今岡達雄
1.調査目的
平成10年2月に行われた第四回浄土宗関東地方教化推進会議の資料を得るため、千葉県内の檀信徒を対象に宗教意識調査を行った。この調査と比較対照を行うために社会変化への対応が急進的なインターネット利用者に同じ調査内容で調査したものである。
2.調査方法
懸賞付きWebアンケート調査法を適用した。
① アンケート調査票
調査内容(質問項目、選択肢)は檀信徒用調査票(印刷・郵送)と同様である。インターネット上での調査票は、HTML3.0で記述した。単一選択肢選択の設問には【radio】ラジオボタンを使用、複数回答可の設問には【checkbox】を使用した。アンケートの回答返送には【mailto:】を使用している。
② 調査票の設置場所
宗教法人善照寺で開設しているホームページ『バーチャル寺院:善照寺』内に調査票を置いた。バーチャル寺院:善照寺はインターネット接続プロバイダであるBEKKOAME/INTERNETのWorldWideWeb(WWW、W3、Web)サーバー内にある。 回答者は【http://www.bekkoame.or.jp/~imaoka/survey.html】にアクセスし、調査票に回答する。
③ 調査回答依頼
インターネット上でのアンケート調査は回答者にその存在を知らしめなければ回答を期待できない。そこで回答数を確保するために二つの方法を採用した。第一は善照寺ホームページへの訪問者で電子メールアドレスが明らかな人に回答依頼の電子メールを送付した(107名)。第二は懸賞、プレゼント情報収集サイトへの登録である。インターネット上では実施されている懸賞・プレゼント情報を収集・発表しているホームページがあり、ここに登録するとアンケート調査へのアクセス数が増加することが考えられる。具体的には『とくとくページ』『懸賞大王』への登録を行った。
④ 懸賞
懸賞賞品はアクセス数と関連があると思われるが、その関係を解析された例はない。この調査ではインターネット接続者に人気があると考えられるデジタル電子スチルカメラを賞品(カシオQV-11:3台)とした。
⑤ 調査期間
1997年9月15日午後7時に調査票をWWWサーバーにアップロードし、9月16日午前0時から回答依頼の電子メールの発送を開始した。1997年10月15日午後12時に調査票をWWWサーバーから削除した。
3.調査内容
1.宗教に関する一般的習慣について
(1)仏壇・神棚の保有状況について(問1、問1a、問2、問2a)
(2)墓の所有と墓参行動(問3、問3a、問3b、問3c)
(3)一般的な宗教行動について(問4、問4a、問5、問5a)
(4)結婚式(問6、問6a、問6b)
2.寺院についての一般的なイメージ
(1)寺院のイメージ(問7)
(2)僧侶のイメージ(問8)
(3)寺庭のイメージ(問9)
(4)寺院訪問目的(問10)
(5)これからの寺院のあり方(問11)
3.菩提寺について
(1)菩提寺の必要性(問12)
(2)菩提寺の認識度(問13、問13a、問13b、問13c)
(3)菩提寺住職への期待(問13d、問13e)
(4)寺庭婦人の認識度と期待(問13f、問13g)
(5)寺族への期待(問13h)
4.人の死について
(1)死後と霊魂の存在について(問14、問15)
(2)霊の守護とたたり(問16、問17)
(3)地獄極楽について(問18)
5.宗教の必要性
(1)宗教の必要性(問19)
(2)宗教が必要な場面(問20、問21、問22)
6.葬送儀礼について
(1)葬式(問23)
(2)戒名(問24)
(3)埋葬(問25、問26)
7.属性項目
(1) 性別(F1)
(2) 年齢(F2)
(3) 世帯主の職業(F3)
(4) 回答者の続柄(F4)
(5) 回答者の職業(F4a)
(6) 家族形態(F5)
(7) 周辺地域の土地柄(F6)
(8) 以上、副設問、属性項目を合わせると50問になる。
4.調査結果
インターネットによる有効回答者数は1685票であった。
(1) 回答者の属性
男女比率は男性82.2%、女性17.8%で圧倒的に男性からの回答が多かった。1997年6月に行われたYahoo(ヤフー)の第3回ウェッブ・ユーザー・アンケート調査(ヤフー調査)によれば女性ユーザーの比率は17.0%となっているので、今回調査はインターネット利用者の男女分布に近いものと考えられる。 回答者の年齢分布については「20歳以上30歳未満」が45.9%、「30歳以上40歳未満」が36.6%、「40歳以上50歳未満」が10.3%となっている。ヤフー調査では「20歳以上30歳未満」が43.6%、「30歳以上40歳未満」が36.5%、「30歳以上40歳未満」が11.6%と極めて類似している。 回答者の職業分布については職業分類方法が異なるが、本調査では会社員61.2%、学生21.7%、専門・自由業6.3%、主婦3.7%である。ヤフー調査では勤め人69.3%、学生18.8%、自営・自由業5.2%、主婦2.1%であり概ねの傾向は一致していると考えられる。 以上からインターネット上で行った懸賞付きアンケート調査の回答者は、インターネット利用者を代表するサンプルとして見なすことが可能であるとおもわれる。アンケート調査結果からみると、インターネット利用者の家族形態は「夫婦と未婚の子供」45.2%、「一人暮らし」20.4%、「夫婦のみ」20.4%であり核家族と単身者で構成されている。また、居住地周辺の土地柄は「昔からの住宅地」36.4%(32.0)、「新興の住宅地域」31.0%(20.1)が多く「周辺地域は農家」20.8%(29.6)が少ないのが特徴である。
※()内は檀信徒層
(2) インターネット利用者(以下:Iネット)の宗教意識(概要)
ここでは、Iネットの宗教意識のうち檀信徒層と大きく異なる特徴についてのみ述べる。
① 仏壇の保有状況
「問1.あなたの家には仏壇がありますか?」という設問に対して、檀信徒層では「ある」が95.7%と高率であるが、Iネットでは38.7%と保有率が大幅に低下している。
② 墓の保有状況
「問3.あなたの家にはお墓がありますか?」という設問に対して、檀信徒層では「ある」が96.8%と仏壇と同様の保有レベルにある、一方、Iネットでは65.9%であり仏壇に比較して保有率の低減傾向が少ない。つまり、信仰の対象である仏壇保有では生活形態によって大きな意識の差が見られるが、死者儀礼に属する墓の保有については新しい生活形態になっても著しい低下が見られない。
③ 墓地の場所
「問3a・お墓がある場合、お墓はどこにありますか?」に対しては、「菩提寺の墓地」が檀信徒では79.8%、Iネットでは37.1%、「地域の共同墓地・霊園」が檀信徒では15.3%、Iネットでは54.2%であった。
④ 菩提寺住職の認知
「問13d.あなたは菩提寺の住職の名前を知っていますか?」という設問に対しては、「知っているとの回答は檀信徒層81.3%であるのに対してIネットでは20.7%であり、住職の認知度が低い。寺院墓地の保有が少ないことと合わせてIネットでは寺院との関係が薄くなる背景が見て取れる。
⑤ 死後の世界、霊魂について
「問14.死後の世界が存在すると思いますか?」では「存在する」檀信徒41.4%、Iネット38.5%。「問15.あなたは霊魂が存在すると思いますか?」では「存在すると思う」檀信徒47.8%、Iネット49.5%であり、両グループの差は有意なものではない。
⑥ 葬式について
「問23.あなたはご自分の葬式が必要であると思いますか?」という設問に対して、「必要である」という回答は檀信徒70.0%、Iネット29.5%と大きな差が見られる。
⑦ 戒名について
「問24.あなたはご自分の戒名は必要であると思いますか?」という設問に対しては、「必要である」という回答は檀信徒58.5%、Iネット10.0%である。戒名に関しては檀信徒層でも必要性の認識が低下するし、Iネットでは必要と回答しているのは10人に1人である。
⑧ 墓について
「問25.あなたはご自分の墓は必要であると思いますか?」という設問に対しては、「必要である」という回答は檀信徒76.6%、Iネット34.3%となっている。葬式や戒名に比較して墓の必要性は高く評価されている。 「問26.あなたはどんな方法で埋葬してほしいですか?」という設問に対しては、「先祖代々の墓」が檀信徒75.8%、Iネット31.9%、「家族墓」が檀信徒14.1%、Iネット25.4%、「散骨」が檀信徒7.2%。Iネット34.5%であり、インターネット利用者では先祖代々の墓が大きく低下しており、散骨を支持する割合が多くなっている。
⑨ まとめ
檀信徒グループは宗教に対する感度が高く、菩提寺に関しても関心が高い。しかし、その宗教的態度は保守的で、旧来の方法を継続することを望んでいる。寺院は仏事が中心で、これを遅滞なく執り行うことが寺院の役割であり、住職、寺庭、寺族もそのように振る舞うことが期待されている。 一方、インターネット利用者グループは既存の宗教に関する感度は低く期待も少ない。また、宗教的な儀礼においても従来の方法と異なる新しい方法を好む傾向があり、戒名の否定と散骨にそれが象徴されている。その一方で死後の世界、霊魂、霊の守護とたたり、地獄極楽の存在については檀信徒グループとインターネット利用者グループの間で大きな意識の差がないことが注目される。
5.おわりに
本調査は浄土宗寺院の檀信徒の宗教意識と対照するためにインターネット利用者の宗教意識調査をインターネット上で行ったものである。インターネットによるアンケート調査はサンプルの偏りがあり、国民一般の調査には不向きであるが、母集団の特性を理解して行えば極めて有力な調査手法である。 インターネット調査の利点は、①調査時間が短期間で行える(印刷、郵送、コーディングの時間がいらない)、②経費が節約できる(印刷費、郵送費、人件費の節約)、③大量の回答を期待できる(郵送法では調査規模により費用が増大するが、インターネットでは大きな差がない)、④短時間で集計が可能(回答が電子的データであり、集計プログラムがあれば即時に集計可能)にある。調査票の設計までは郵送法と同様であるが、それ以降の作業が短時間、低コストで実現できる。インターネットの利用状況は時々刻々と変化しているが、ここ一年位は有効な方法として活用できるであろう。